標高294.8mの麻氐良山の山頂に鎮座する麻氐良布神社の創始は不詳ですが『日本三代実録』、及び『延喜式神名帳』に記された古社です。
『日本三代実録』の元慶元年(877)9月25日にて従五位下真天良神を従五位上に。元慶三年(879)9月27日には正五位下に。元慶四年(880)6月3日には正五位上に昇叙したことが記されています。延長5年(927)編纂の『延喜式神名帳』では、筑前国十九社の一社として式内社に列せられました。
『日本三代實錄』卷三十二
元慶元年(877)九月廿五日癸亥。授筑前國從五位下眞天良布神從五位上。
『日本三代實錄』卷三十六
元慶三年(879)九月廿七日甲寅。筑前國從五位下眞天良布神從五位上。
『日本三代實錄』卷三十七
元慶四年(880)六月三日乙酉。授筑前國從五位上眞天良夫神正五位上。
※元慶3年、及び元慶4年の昇叙にて誤記があり、最終的な神階は正五位上。
『延喜式』巻十 神祇下 ※通称『延喜式神名帳』 延長5年(927)編纂
西海道神一百七座[大卅八座・小六十九座]。
筑前國十九座[大十六座・小三座]。宗像郡四座[並大]。宗像神社三座[並名神大]、織幡神社一座[名神大]。那珂郡四座[並大]。八幡大菩薩筥崎宮一座[名神大]、住吉神社三座[並名神大]。糟屋郡三座[並大]。志加海神社三座[並名神大]。怡土郡一座[小]。志登神社。御笠郡二座[並大。筑紫神社[名神大]、竈門神社[名神大]。上座群一座[小]。麻氐良布神社。下座郡三座[並三座]。美奈宜神社三座[並名神大]。夜須郡一座[小]。於保奈牟智神社。
御祭神は、伊弉諾尊を主祭神とし、相殿に天照大神(日神)・月夜見尊(月神)・蛭子尊・素戔嗚尊を合祀しています。
宝永6年(1709)貝原益軒による『筑前国続風土記』、
文政4年(1821)奥村玉蘭による『筑前名所図会』、
天保8年(1837)青柳種信による『筑前国続風土記拾遺』、及び
天保12年(1841)伊藤常足による『太宰管内志』では全てこの御祭神の説を取っています。
一説には、 伊弉冊尊・伊弉諾尊・斉明天皇・天智天皇・明日香皇女を祭神とする説もあります。
また、享保18年(1733)出口延経による『神名帳考証』では御祭神は天照国照彦火明命とし、麻氐良は天照の略称であるとしています。
『筑前国続風土記』によれば、天文4年(1535)又は天文14年(1545)大内義隆が幣帛を捧げた寄進状が残っていたと伝えていますが、元亀~天正年中(1570-1592)の戦乱期、麻氐良布神社の鎮座する麻氐良山の頂上は、日田街道を押さえる麻氐良城として、秋月種実と大友氏との戦乱の最前線地となります。天正15年(1587)秋月種実は豊臣秀吉に降伏し、日向へ移封されます。その中で社地は没収され、荒廃を極めて見るかげもなくなったと伝えられています。慶長5年(1600)黒田長政が筑前国の領主になり、黒田氏の筆頭家老であった栗山利安は麻氐良城の城主となり、祭田を寄進します。しかし、麻氐良城は元和元年(1615)の一国一城令により廃城。そして栗山利安の後を継いだ栗山利章(栗山大膳)は、寛永10年(1633)の黒田騒動により盛岡藩預かりとなり、栗山氏は当地を去ることとなります。その後、郡主になった鎌田昌生が元禄年間(1688-1704)に本殿、拝殿を建て、鳥居を寄進。宝永4年(1707)郡氏が村主となってからも神祠の修復が加えられ、寛延2年(1749)には拝殿、宝暦10年(1760)には神殿が修造されました。安永元年(1772)8月14日に修造された拝殿が現在の拝殿です。文政3年(1806)11月に1町5段6畝3歩の畑地を寄進され、祭祀も古に復し、神宮寺の普門院が社僧として奉仕しました。
麻氐良山山頂に鎮座する上宮への遥拝所(下宮)は、麻氐良山山麓の普門院から左手に400m程、麻氐良山の中腹に祀られています。下宮の左手脇の柿畑の中の小道を進むと麻氐良山への登山道が続いており、上宮のある頂上まで30~40分になります。
明治5年(1872)郷社に列格。志波・高木・久喜宮・杷木・松末・宝珠山・小石原の郷社として尊崇され、祭祀にも参加したと伝えられ、戦時には軍神として崇敬を集めて武運長久を祈る人々が連日参拝したとされています。
しかし、人里離れた山頂にあるため、近年は3月15日の祭札が続けられるだけとなっています。平成10年(1998)には、社殿の屋根が相当傷んでいたため神殿を銅板に、拝殿を瓦に拭き替えています。その工事のため御神体を志波宝満宮に遷座した同年4月21日、当日は曇り空で小雨がパラつく程度であったにもかかわらず、御神体を運び出そうとした時に山鳴りが起こったと伝えられています。又、8月27日に志波宝満宮から還御した際、御神体を麻氐良山山頂の本殿の祠にお納めすると、参列者の耳に「ボーン、ボーン」と誠に気持ちの良い明るい音が届き、神様が安堵されたと感じ入ったと伝えられています。
本殿は1間口奥行1間の流造銅板葺、拝殿は3間口奥行2間の流造瓦葺。
社殿前の階段右手に筑前国十九社の石祠が並んでいます。筑前国十九社から少し下がった参道に中宮が鎮座しています。